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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(ネ)21号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 日本精器株式会社

被控訴人(附帯控訴人) 安田善一

主文

原判決を左の如く変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、別紙目録〈省略〉掲記の建物を明渡し、且、金三千九百六十三円並に昭和二十八年六月一日以降明渡済に至る迄一個月金四千円の割合に依る金員を支払わねばならぬ。

被控訴人(附帯控訴人)の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)、爾余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

此の判決は、被控訴人(附帯控訴人)に於て、金十万円に相当する担保を提供するに於ては、建物の明渡しを命ずる部分に限り、仮にこれを執行することが出来る。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除き、その余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。被控訴代理人は前記の控訴に附帯し、「原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取消す。控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、且、金三千百五十円並に昭和二十八年五月一日以降明渡済に至る迄一個月金四千円の割合に依る金員を支払わなければならぬ。訴訟費用は第一、二審共控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。との判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、控訴代理人は「附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする」との判決並に担保を条件とする仮執行免除の宣言を求めた。(以下附帯控訴人を被控訴人、附帯被控訴人を控訴人又は控訴会社、附帯控訴代理人を被控訴代理人、附帯被控訴代理人を控訴代理人と略称す。

当事者双方の事実上の主張は被控訴代理人に於て「仮に控訴人が被控訴人に対し、その主張の如き金四万九千二百五十円に相当する不当利得返還請求権又は必要費有益費償還請求権を有するとしても、被控訴人は控訴人に対し、原審に於て主張し、且、認容された通りの賃料債権を有するので、対当額につき、本訴に於て相殺の意思表示をする。相殺すべき賃料は、昭和二十七年三月末日限り支払を受くべき賃料の残金四百円、同年四月分以降昭和二十八年三月分迄の賃料金四万八千円、同年四月分賃料の内金八百五十円、以上合計金四万九千二百五十円をもつて、対当額に達すると考えられる。右相殺に依り、控訴人は本件建物に対する留置権を喪失したものであり、従て控訴人は被控訴人に対し、無条件、且即時、本件家屋を明渡し、且、昭和二十八年四月分賃料残金三千百五十円並に同年五月一日以降契約解除前である昭和二十九年六月分迄一個月金四千円の割合に依る賃料並に契約解除後である昭和二十九年七月以降明渡完了に至る迄賃料相当額の損害金を支払うべき義務がある。よつて敍上家屋の即時且無条件の明渡し並に相殺によつて消滅した賃料債権を除くその余の賃料及び損害金の各支払を求めるため、茲に附帯控訴に及ぶ」と述べ、なお「本件家屋の賃料支払期日は毎月末日当月分払の定めであつた。被控訴人が控訴人より昭和二十六年九月頃より昭和二十九年一月頃迄の間、物品、手形、現金等を以て、本件賃料中に、合計九万七千八百円の内入弁済を受けたことは、これを認める。その結果、本件賃料は昭和二十七年二月分迄及び同年三月分の賃料の内金三千六百円の弁済を受けた計算になる。従つて敍上の如く相殺すべき債権は、さらにその残額すなわち、同年三月分残金四百円、同年四月以降昭和二十八年三月迄の分並に同年四月分中金八百五十円、合計額となる次第である」と述べ、控訴代理人に於て「本件賃料の支払期日が毎月末日当月分払の約定であり、控訴人が被控訴人よりその主張の日、主張の如き解除の意思表示を包含する賃料の催告に接したことは、いずれもこれを認めるが、右請求賃料額は、適正額の二倍半にも及ぶ過大な額であり、従つて右催告は無効であると考えられるのみならず、仮に然らずとするも、控訴会社代表者に於ては、催告受領の直後、被控訴人の代理人である塚本助次郎方を訪れ請求賃料額の誤謬を指摘すると共に、他方適正賃料を分割弁済したき旨申入れ、これに対し右塚本助次郎は、本人と相談の上、何分の回答をしたい旨返答した儘、今日に推移しているものであるから、敍上の催告は、塚本助次郎より何分の回答ある迄、その効力を停止しているものである。なお賃料の約定額中統制額を超える部分は、法律上無効であるから、たとえ昭和二十五年八月以降統制が撤廃されたとしても、賃貸人賃借人間に、新な合意の締結を見ない限り、従来無効なりし超過部分が、当然に有効化すると考えるべきでなく、しかるに本件に於ては、賃貸人と賃借人間に、統制撤廃後、新たな合意を取交わした事実がないから、昭和二十五年八月以降の賃料も、引き続き旧統制額(一個月金一千八百円)に依つて算定すべきであり、この計算によれば控訴人の被控訴人に対する賃料未払残額は金二万四千円に過ぎず、斯る少額の債務不履行を原因とし、事業不振のため困窮状態にある控訴人に対し、賃貸借契約を解除し、家屋の明渡しを求める被控訴人の行為は、権利を濫用するものに外ならない。なお控訴人の被控訴人に対する不当利得返還請求の主張が、仮にその理由なしとするも、控訴人は、本件家屋を保存し且改良するため、自己の負担に於てその床板を張り便所を新設し、これによつて本件建物は金四万九千二百五十円の増価を得ているから、控訴人は被控訴人に対し、右増価額の償還を求めると同時に、その弁済完了に至る迄、右家屋に対し留置権を行使するものである。控訴人の原審に於ける主張中控訴人の本件家屋に対する造作買取請求権及びこれに伴う留置権行使に関する主張は、これを撤回する」と述べた外原判決事実摘示の通りであるから、此処にこれを引用する。

〈立証省略〉

理由

被控訴人先代安田喜一郎が昭和十九年頃控訴会社に対し、被控訴人先代の所有に係る別紙目録記載の家屋を賃料一個月金百五十円毎月末日払の約で、期間の定めなく貸与したこと、右喜一郎は昭和二十年六月二十日死亡し、被控訴人が家督相続に依り右建物の所有権を取得し、且、貸主たる地位を承継したこと、貸主及び借主が昭和二十三年十月分より賃料を一個月金四千円と改訂したこと、被控訴人が控訴人に対し、昭和二十九年六月二十六日条件付契約解除の意思表示を包含する賃料支払の催告をしたことは、いずれも当事者間に争がない。本件に於ける基本たる争点は、右解除の意思表示の効力如何に繋る。解除の効力如何を判定するためには、その前提として、賃料滞納の事実の有無を審究する必要があり、賃料滞納の事実の有無を判断しようとすれば、さらにまた、その前提として、本件賃料の統制額如何を確認しなければならぬ。そこで、まず原審鑑定人高橋利吉の作成に係る鑑定書の記載について検討するに、同鑑定人は、約百七十坪の隣地(本件賃貸借と別個の合意に基き、昭和十九年頃被控訴人より控訴人に貸与され、昭和二十七年十月頃控訴人より被控訴人に返還された土地)の使用料を一個月分金三十円と見積り、これを本件家屋の賃料に加算し、その合計額を基礎として統制額を算定していることを、該書面の記載それ自体より認め得べく、同鑑定人の鑑定の結果より隣地の統制額を控除し、敍上争なき本件家屋に対する昭和十九年当時の賃料を基礎とし、本件家屋に対する賃料統制額を改めて算定するときは、本件家屋の賃料統制額は(一)昭和二十二年九月一日以降金三百七十五円(二)昭和二十三年十月十一日以降金九百三十七円五十銭(三)昭和二十四年六月一日以降金千五百円(昭和二十五年七月十一日政令第二百二十五号第二十三号に依り統制解除)となることが算数上明白である。次に統制解除後に於ける賃料額について、被控訴代理人は「一個月金四千円の約定賃料額によるべきである」旨主張し、控訴代理人は、「従来の約定中統制額を超える部分は、法律上無効であり、さればと言つて、当事者間に改めて賃料を約定した事実がないので、従つて、統制解除後に於ても、また、本件賃料は依然統制額によるべきである。」旨主張するので審案するに、賃料に関する約定中、これかため原告幸三郎はこれかため原告幸三郎は地代家賃統制令に違背する部分が法律上無効であることは言う迄もなく、また原審並に当審証拠調の結果を精査しても、昭和二十五年七月統制解除後現在に至る迄、本件当事者間に於て、本件賃料に関し、明示の意思表示を以て、新な合意を締結した形跡の存在を、全く認め得ないことは、まことに控訴代理人所論のとおりであるけれども、しかしながら、他方、原審証人氷田勝行、同橋本庄三郎の各証言、原審に於ける原告本人並に被告会社代表者の各供述、当審に於ける被控訴本人、控訴会社代表者本人に対する各訊問の結果を綜合すれば、控訴会社は、賃貸借解除の通告を受ける迄、未だ嘗て約定賃料の数額を争つたことがなく、統制解除後に於ても、統制解除前と変ることなく、約定の賃料を承認し、被控訴人に対し、数回に亘つて物品、手形等を交付し、もつて賃料の弁済に充当して来た事実を認め得べく、右の事実に依れば、本件当事者は、統制解除後、暗黙の裡に、約定賃料によるべきことを合意したものであることを看取するに十分である。そうだとすると、控訴会社は、被控訴人に対し、統制解除前は敍上の如き統制額、統制解除後は前記のような約定額に従い、賃料を支払うべき義務を負担するものであると言わなければならぬ。次に、前記のような賃料支払の義務を、控訴会社に於て、どの程度迄履行したかの点を案ずるに、昭和二十三年九月分迄の賃料が、全部支払済であることは、当事者間に争がないのみならず、昭和二十三年九月分迄の賃料に対する過払の有無については、控訴代理人より何等主張の提出がなく、(統制額超過部分が僅少であることについては、後記参照のこと)以下判断するところは、控訴代理人の主張を限度とするものであるが、成立に争なき乙第一号証、原審に於ける原告本人並に被告会社代表者各訊問の結果、当審に於ける被控訴本人並に控訴会社代表者の各供述等を綜合すれば、控訴会社は被控訴人に対し、昭和二十三年十月以降昭和二十四年一月迄毎月四千円宛、合計金一万六千円の支払をしたことを認め得べく、その外、控訴会社が被控訴人に対し、昭和二十六年九月頃より昭和二十九年一月頃迄の間物品、手形現金等を以て、合計九万七千八百円の支払をしたことは当事者間に争がなく、従て控訴会社の弁済額は合計金十一万三千八百円となることが計算上明であり、他方本件家屋の賃料は(一)昭和二十三年十月一日以降同月十日迄一個月金三百七十五円の割合による分百二十一円、同月十一日以降月末迄一個月金九百三十七円五十銭の割合に依る分六百三十五円合計金七百五十六円(二)昭和二十三年十一月一日以降昭和二十四年五月末日迄毎月金九百三十七円五十銭の割合による七個月分合計金六千五百六十三円(三)昭和二十四年六月一日以降昭和二十五年七月十日迄毎月金千五百円の割合による十三個月と十日分合計金一万九千九百八十四円(四)昭和二十五年七月十一日以降催告前既に弁済期の到来した昭和二十九年五月末日迄毎月金四千円の割合による三年十個月二十一日分合計金十八万六千七百十円であり、以上を総計すれば、金二十一万四千十三円となるから、控訴会社の弁済額金十一万八百円を、これより控除した賃料未払残額は昭和二十九年六月一日現在金十万二百十三円と言うことになる。ところで控訴会社の過払弁済金を、昭和二十三年十月以降の賃料に、逐次繰下げて算入すべきものであることについては当事者間に争なく、この方法に従つて計算するときは、控訴会社は昭和二十七年三月末日迄の賃料並に同年四月分の賃料中に金三千七百八十七円の内入弁済をしたが、その余の支払を、現在に至る迄遅滞している計算になる。ところで、既に判示したように、被控訴人より控訴会社に対し、昭和二十九年六月二十六日賃料支払の催告及び条件付契約解除の通知の為されたことは当事者間に争がなく、右争のない事実より真正に成立したと認め得る甲第一号証の記載によれば、該催告は、何時から何時迄の賃料未払分について為されたものか、必ずしも明かでないけれども、免も角、これに滞納額として記載された金額は、金二十三万二千円であつて、弁済期の到来した賃料中未払分全部を要求する趣旨であつたと認め得べく、これに対して控訴代理人は、斯る過大な賃料支払の催告及び契約解除は無効である旨主張し、また、前記の如く適正賃料延滞額が金十万二百十三円であつたことよりすれば、請求金額の過大であることは、まことに所論の通りであるけれども、しかしながら、本件の場合、既に説示したように控訴会社は、請求金額の半額に近い債務を、現実に延滞して居る状況を認めるに足るのみならず、原審における原告本人並に被告会社代表者の各供述、当審に於ける被控訴本人並に控訴会社代表者各訊問の結果に徴すれば、控訴会社は、催告された期限迄、に適正賃料延滞額相当部分のみについても、その履行をする意思及び能力を全く有しなかつたことを肯認することが出来るから、敍上の催告は、その中正当な未払賃料額を包含する限度に於て、有効であると解すべきである。なお、前掲の各資料によつて認め得る(一)昭和二十三年十月賃料改訂前の約定賃料は、被控訴人未帰還なりしため、比較的低廉の侭に据置かれ、統制額を少しく超えるのみであつたに反し、控訴会社に於ては、本件建物備付の窓ガラス数十枚を壇に取外し、他に運搬転用する等、信義に背反する行為に及んでいること(二)昭和二十五年七月中統制が解除されたため、統制額を著しく超える賃料を徴収した期間が比較的短期間であつたこと(三)本件約定賃料は、その後改訂されて居ないが、賃貸価格を基礎とする本件家屋の適正賃料は、昭和二十九年頃より既に金六千円を超過していること等の諸事情に徴すれば、催告の効力に関する敍上の解釈は、本件の実情に即した妥当な解釈であると考えられる。控訴代理人は「控訴会社代表者は、催告受領直後、被控訴人の代理人塚本助次郎に対し、賃料請求額の誤謬を指摘し、適正賃料を分割弁済したい旨申入れ、これに対し塚本助次郎は、本人と相談の上何分の回答すべき旨返答した儘、今日に推移しているものであるから、敍上の催告は、塚本助次郎より何分の回答ある迄、その効力を停止しているものである。」旨抗争するけれども、たとえ控訴代理人主張のような事実があつたとしても、これによつて本件催告の効力発生が、停止されると解すべき根拠を見出し難いから、右の主張は採用するを得ない。前記の催告が有効である以上、催告期限の徒過により、本件賃貸借契約は遅くも昭和二十九年六月末日限り解除され、控訴会社は被控訴人に対し、別紙目録掲記の建物を明渡すべき義務を負担するに至つたことは言う迄もない。控訴代理人は「被控訴人の本件賃貸借に対する解除権の行使は、権利の濫用である」旨主張するが、控訴会社が被控訴人に対し、金十万円を超える債務を負担することは、既に述べた通りであり、従つて債務不履行を前提とする被控訴人の解除権の行使は、何等権利を濫用したものでない。不履行債務額が控訴代理人主張の如く僅少でないことは、既に判示したところによつて明かである。そうだとすると、控訴会社は、被控訴人に対し、別紙目録記載の家屋を明渡すと共に、昭和二十七年四月分賃料残額金二百十三円、同年五月以降契約解除当時である昭和二十九年六月分迄、毎月四千円の割合による賃料並に契約解除後たる昭和二十九年七月以降明渡完了に至る迄賃料相当の損害金を支払うべき義務があると言わねばならぬ。次に控訴代理人は「控訴会社は自己の負担に於て、本件家屋を保存し又は改良する為、これに床板を張り、且、便所を設け、これによつて、本件家屋の価格は、時価金四万九千二百五十円の増加を得ているから、控訴会社は右増加額の返還を求めると同時に、その満足を得る迄本件家屋について、留置権を行使する」旨主張し、成立に争なき甲第二号証原審に於ける被告会社代表者の供述、当審に於ける証人由井幸二、同石橋次郎、同室崎清三郎の各証言、控訴会社代表者訊問の結果、原審鑑定人高橋利吉の鑑定の結果等に徴すれば、控訴会社は被控訴人先代安田喜一郎の生存当時、同人の承諾の下に、別紙目録記載の建物につき、階上並に階下の床板約四十坪を新に張り、従来の便所を改造して、新に両便所を設け、約定による賃借人の修繕義務の履行とは別個に、自己の負担に於て、時価金四万九千二百五十円相当の物件を附加して本件家屋を改良したこと、その結果、本件家屋の価格は、右金額に相当する増加を得ていること、従つて被控訴人は控訴人に対し、民法第六百八条第二項第百九十六条第二項に従い、右増加額を償還する義務を負担するものであることを認め得ない訳でない(この点につき、右認定と同じく被控訴人不利益の認定をした原判決に対し、被控訴人は控訴の申立を為さず、わずかに附帯控訴によつて、該債権に対する相殺の抗弁を提出しているにすぎない)けれども、これに対し、さらに被控訴代理人は、控訴会社の被控訴人に対する前記の償還請求権を受働債権とし、被控訴人の控訴会社に対する延滞賃料債権を自働債権として、弁済期到来の順序に従い、対当額に於て相殺の意思表示を為す旨抗争するので案ずるに、右抗弁の提出により、控訴会社の被控訴人に対する金四万九千二百五十円の債権は、被控訴人の控訴会社に対する賃料債権昭和二十七年四月分残額金二百十三円同年五月一日以降昭和二十八年四月末日迄十二個月分金四万八千円、同年五月分中金千三十七円以上合計金四万九千二百五十円と相殺され、相殺適状成立の時である昭和二十八年五月末日に遡り、いずれも消滅に帰し、その結果、控訴会社は、一方に於て、前記の範囲に於て賃料支払の義務を免れると同時に、他方、本件家屋に対する自己の留置権を喪失するに至つたものであることを認め得る。敍上償還請求権と関連し、これと法律上の見解を異にするに過ぎない控訴代理人の他の主張については、既に右償還請求権を認容した以上、此処に判断を示す必要がない。そうだとすると、控訴会社は被控訴人に対し、別紙目録掲記の建物を即時明渡した上、賃料未払分昭和二十八年五月分残金三千九百六十三円同年六月分以降昭和二十九年六月分迄毎月金四千円の割合による賃料及び同年七月一日以降明渡済に至る迄、賃料と同一の割合による損害金の各支払を為すべき義務を負担するものであることが明白であるから、被控訴人の請求はこの限度に於てこれを許容すべく、その余を失当として棄却すべきであり、控訴人の控訴は、控訴人の支払うべき金額が、原判決より減少した限度に於て、被控訴人の附帯控訴は、相殺の抗弁が許容された限度に於て、各一部その理由があると言うベく、これと符合しない原判決は、民事訴訟法第三百八十六条に従いこれを変更することとし、訴訟費用について同法第九十六条第八十九条第九十二条を適用し、被控訴代理人の求める仮執行宣言の申立については、同法第百九十六条第一項に則り、その必要ありとしてこれを許容すべく、控訴代理人の求める仮執行免脱の申立は、その理由なしとしてこれを却下することとした上、主文の通り判決する。

(裁判官 成智寿朗 沢田哲夫 山田正武)

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